長野県大鹿村のフリーライター、宗像充さん(46)が、絶滅したとされるニホンカワウソの生存説に迫る「ニホンカワウソは生きている」(旬報社)を出版した。環境省が2012年に「絶滅宣言」をした幻の動物で、宗像さんの著書としては同じく絶滅種をテーマにした「ニホンオオカミは消えたか?」に続く第2弾だ。国内外で精力的に取材し、謎解きに挑んでいる。
ニホンカワウソはイタチ科の哺乳類で、かつては全国の河川の中・下流域に生息していた。環境省によると、明治時代に毛皮を目当てにした乱獲によって生息数を大幅に減らした。さらに戦後は、河川開発による生活環境の悪化や水質汚染などで激減。1979年、高知県での目撃例を最後に絶滅したとされる。
しかし、宗像さんは、2012年8月に環境省が出したニホンカワウソの絶滅宣言に疑問を持った。当時、取材を続けていた九州のツキノワグマも一緒に絶滅宣言されたが、いずれも目撃例から年数が浅く、裏付けは不十分だと考えたからだ。
「九州のクマは毎年のように目撃情報がある。カワウソだって最後の目撃例から絶滅宣言まで33年しか経っていない。早すぎる」
翌13年から、最後の生息地として知られる高知県など四国を中心にカワウソの取材を始めた。そして17年、驚くべきニュースが飛び込んできた。ツシマヤマネコの生態調査のため、琉球大が長崎県・対馬に設置していた自動撮影カメラにカワウソ1匹の姿が撮影されていたのだ。
生きているカワウソが国内の自然環境で見つかったのは38年ぶり。環境省がすぐに調査し、糞(ふん)を回収してDNA解析したところ、ユーラシア大陸に広く生息するユーラシアカワウソのものだと分かった。
宗像さんは対馬で現地取材し、さらに絶滅への疑問が大きくなったという。まず、ニホンカワウソは日本の固有種だという説とユーラシアカワウソの亜種だとする説がある。そして回収・調査した糞は排泄(はいせつ)から1~2カ月経っているうえ、サンプル数が少ないため、ユーラシアカワウソの亜種かどうかまでは判別できなかったという。韓国からの漂着説もあり、環境省はDNA解析だけでは「ニホンカワウソ再発見か否か」を確認できておらず、現在も調査を続けている。
宗像さんは、カワウソの生存を調べる高知県のグループも密着取材している。20年9月に、グループは同県大月町で赤外線カメラを使って撮影したカワウソらしき動物の画像や動画を公開した。
10月に発刊した著書「ニホンカワウソは生きている」では、1973年に大鹿村での目撃例が地元紙に掲載されたことなど県内の情報も紹介している。宗像さんは「ニホンカワウソは十分な調査もされず、絶滅したとされた。取材を続けるほど生存を信じるようになった」と話し、今後も取材を続けるという。(近藤幸夫)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル